・・・1996年~1999年くらいの出来事だったと思います。
林邦史朗先生の下に「一人の、目にケガを負った女性」から、手紙が届きました。
それは、「ある小劇場で、興行主に強く言われて殺陣を演じた処、失明する羽目に陥ったのだが、どのようにしたら良いか」という相談であったそうです。
その後、林先生は時間を作り、その女性のお話を聞いてあげたんだそうですが、私はその方に一体どんなアドバイスをしたのかと、先生に尋ねてみました。
林先生が仰るには、
「今の時代なら、裁判という事になるだろう。時間も掛かるし、お金も掛かる事だけれど、それをした処で、もしかしてお金は入ってくるかも知れない。けれど、彼女の失明した目はもう、どうにも元には戻れない」
そして、もう一つ口にされたのが、
「人を楽しませるお芝居で、大ケガをしたり、ましてや死ぬ人が出たりしてはダメだよ・・・」というお言葉でした。
林邦史朗先生は、本当に希有なお方でした。
・・・これは現在でもそうですが、殺陣の世界は男社会です。
なのに「女性の私」を何時しか林先生は、自分の代理として殺陣の講師として立たせるようなお方でした。
1999年から始まった私の講師人生ですが、2019年の今ですら、そうは殺陣に関する女性の講師はいませんから・・・林先生のされた人事は、今でもとても画期的な事だったと思います。
そして、林先生に認められて私は「映像での殺陣師デビュー」にまで至ります。
「殺陣師なんて、危険な仕事じゃないか」とよく言われますが、私はどちらかと言うと・・・ビビリ屋だったので。
だからこそ、石橋の上を叩いて叩いて、安全の上に安全を重ねてやって来れたので、携わった生徒達も私も、そう大きなケガもなく過ごせて来れたのではないか・・・というのが、私の持論です。
ですが、世の殺陣の現場はと言いますと、小さなケガで済む人もあれば、こうして一生を変えてしまうような事故に遭う人や、死に至る人までもいたと聞きます。
・・・私は、林邦史朗という先生の下であったからこそ、今まで大過なく過ごして来れていたのか・・・と考えるようになりました。
西暦2000年になっても、当時はまだブログという制度もなく、世の中に「ホームページ」という存在が知られて来たかなぁ・・・というくらいで、動画サイトなどもまだまだ貧弱な時代でした。
携帯電話で、動画撮影どころか、写真付のメールがようやく、出来たかな?・・・というような時代です。
・・・そんな中で、「殺陣に関する危険を、回避する方法がある事を世間に知って戴きたい」という私の思いから、知人の助けを借りて、私こと山野亜紀は、自分でホームページ制作をするようになりました。
当時は、チャットなどでハンドルネームというのが流行で、私は英語の「How are you?」をもじって自分を「はわゆ」と名付け、そのタイトルを「はわゆの殺陣&アクション、そして護身のテクニック講座」として、2003年7月より開設し、2006年に初めて外部でドメインを取得して、「はわゆネット(http://hawayu.net/)」として正式に個人のHPを立ち上げました。
「はわゆネット」より、少し遅れて私が手掛けたのが、林邦史朗先生のHPである「武劇館HP(https://www.bugekikan.com/)」だったのですが、先生の死を機に一時中断。(2015年暮)
それがこの度、全て構成し直し、先生関係の記事の再サイトアップと共に、「はわゆネット」の方は、終了の運びとする事に致しました。
・・・開設当時のパソコンの機種は、富士通の「Windows98SE」・・・私が、産まれて始めて購入したパソコンでした。
演じる本人も、共演する仲間達ですらも「この現場は危うい」と感じていながら、一体何故、この危険は回避出来なかったのか。
それを感じた時、一体何処に相談をすれば良かったのか。
また、相談をする場所は一体、あるのか。
・・・何とか、その足掛かりになれたなら・・・。
そして世の皆さまに「殺陣というものに、興味を持って欲しい。そして、そこに危険が伴うものであることを感じ、何かの折には回避をして戴きたい、そんな相談の窓口であって欲しい」という願いから、私のホームページ制作は始まったのです・・・。
・・・とはいえ、HP制作については、まったくの素人の私でしたから、何度も何度も不具合と戦い続け、その必要から(最低限だとは思いますが★)
HTMLの勉強やら、使うソフトも何やらどんどんと様変わりを続けて、現在(2019年)の私へと続いています。
この武劇館HPは、2015年に亡くなられた林邦史朗先生の記録を掲載したものですが、その一番の切っ掛けとなった私のHPで連載をし続けてきたエッセイ(全60話!)も全て、移行させました。
現代のブログとは違って、当時は(私なりに、お客さまに読み易いようにと)更新にもとても手間ヒマをかけた、私としてはとても想い出深い小品集です。
・・・お楽しみ戴けたなら、幸いです。
このHPでは、林邦史朗の研究成果や稽古様式の目録を公開し、映像や文献などを整理した上で必要な方には有償で申し受け、後世に伝える事を目的の一つとしています